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回復期リハビリテーション病棟における新人教育

~知覚転移を踏まえた技術の教育とは~
リハビリテーション科 医療技術部門主任 作業療法士 舩越 稔

【要約】

 リハビリテーションの新人教育は、「言葉で言い表せない技術」といった個々の暗黙知を相互理解の得やすい形式知へと言語化する過程が重要である。

【論文内容】

 徳島県北部の板野郡は5つの町を含み、徳島市に次いで2番目に人口の多い地域であり、当院はその地の中核病院としての役割を担っている。病床数は198床のうち1病棟52床が回復期リハ病棟である。
 2016年度(平成28年度)の診療報酬改定以前は、人手と時間数をかけることで重症者の受け入れ率および重症者の改善率の上昇等、運営体制の充実を重視した施設基準であった。しかし、2016年度の診療報酬の改定以降は、”入院中の運動項目FIMの改善度と回復期リハ病棟の在棟日数が重要視”されているといえ、回復期リハ病棟のセラピストには、「短い在棟期間でFIM利得を高める」ことや、「短期間で効果的なリハを実践できるといった結果とともに質」がさらに求められてきている。
 当院の新人教育はマニュアル化されており、毎年度見直し、修正、更新し、技術的な指導にはOJT(on the job training)や徒弟制度を長年活用している。しかしながら、起居・移乗動作やADL等への教育的な指導は、それぞれの課題がもつ特性や治療の核となる重要な部分の技術の継承には至らず、手順や方法といった形式的な内容となっていた。
 さらに、リハにおける技術面の継承については、各個人の経験則に培われた感覚的な知識に依存する「言葉でうまく言い表せないが確かな技術」をどのように次世代に指導していくかが問題となる。
 このリハの技術指導に寄与する知識を類型化すると、「形式知」と「暗黙知」の2つに分けられる。「形式知」とは、言語や数字で表すことができ、クリニカルパスや業務マニュアル、報告書など文章のかたちにすることができ、理解の進みやすい知識である。一方の「暗黙知」とは、非常に個人的なもので他人に伝達して共有することが難しい。主観に基づく洞察、直観、勘が、この知識の範疇に含まれ、はっきりとこれだと示すことが難しい技能や技巧等である。リハにおける治療技術もこれに当たり、直接の経験と行動から得られる。
 野中らは、これら形式知と暗黙知をまったくの別物とは捉えず、相互に絶え間なく変換・移転するものであり、そのことによって新たな知識が創造され知識転移もされるとしSECIモデルを提唱した。
 新人セラピストや後輩セラピストに対して、元来の指導方法による手順や方法、触れ方、持ち方等といった画一的な形式知の発信にとどまると、その多くは「表出化」といった個人の暗黙知から形式知を創造する過程までか、その創造した形式知を体系的な手順や方法等への「連結化」といった過程までとなってしまう恐れがある。それでは、その先にある新人・後輩セラピストが実践の中で得る個人の暗黙知を「内面化」するプロセスや最終的には教育者や対象者との共体験による暗黙知の獲得・伝達といった「共同化」のプロセスへと十分に至らないことが考えられる。
 そこで、「技術面への指導」では、指導場面やその後のフィードバックにおいても、この「共同化」までのプロセスを重要視し、対象セラピストが獲得した新たな暗黙知を組み合わせ、生まれる知識を言語化し共有を繰り返す。そして、個々の臨床場面で追体験として実践し体得できることを念頭に置きかかわり合っている。
 われわれも後輩育成へのかかわり合いが増え、臨床場面と教育場面はリンクすると切に感じている。「治療する」といった視点ではなく、対象者が自ら良い方向へ向かおうとする「能動性をいかに引き出し導けるか」に熱意をもって探究し続けられるセラピストの育成がわれわれの今後の役割であり課題である。


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